大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)117号 判決 1985年11月14日

東京都世田谷区玉堤二丁目一〇番九号アルス等々力一〇一

原告

白土茂和

右訴訟代理人弁護士

浦田武知

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被告

目黒税務署長

森居勝雄

右指定代理人

高須要子

琵琶坂義勝

沼澤勇一

守屋和夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五六年三月一四日付でした原告の昭和五二年分所得税の更正(以下「本件更正」という。)のうち課税所得金額三一四一万〇五〇九円を超える部分及び同年分所得税の過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」といい、これと本件更正をあわせて「本件処分」という。)のうち三五万六六〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯は、別表記載のとおりである。

2  しかしながら、本件更正のうち課税分離長期譲渡所得金額二八〇九万〇九〇九円を超える部分には、原告の所得を過大に認定した違法があり、したがって、本件決定にも一部違法な部分があるから、本件処分のうち右各部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和五二年分の所得金額等は、次のとおりである。

(一) 総所得金額 三三一万九六〇〇円

(二) 分離長期譲渡所得金額 六七五六万五〇〇〇円

(三) 所得税額 二五〇七万六四〇〇円

(四) 過少申告加算税額 一二四万二三〇〇円

2  右1(二)の分離長期譲渡所得金額は次表のとおり算出されるものであり、右金額は本件更正における分離長期譲渡所得金額六五〇九万円を上まわるから、本件更正は適法である。

<省略>

(右表<4>の租税特別措置法三一条二項は昭和五七年法律第八号による改正前のものである。)

(一) 右の表の各項目の内容は、次のとおりである。

(1) 収入金額 七二〇〇万円

原告及び松浦相晋こと文相晋(以下「文」という。)は、別紙第一の物件目録記載の借地権付建物(以下同目録記載の建物を「本件建物」といい、借地権とともに「本件資産」という。)を、後記(二)のとおり原告が一〇分の四、文が一〇分の六の持分割合で共有していたところ、原告及び文は、昭和五二年二月一五日本件資産を株式会社広島興産(以下「広島興産」という。)に一億八〇〇〇万円で売り渡したので、右譲渡価格に原告の持分割合である一〇分の四を乗じた金額七二〇〇万円が原告の譲渡収入金額となる。

(2) 取得費 三四三万四五四九円

原告及び文は、昭和四二年一〇月一日本件資産を孫寿福(以下「孫」という。)から二五〇〇万円で取得したので、右取得価額に原告の持分一〇分の四を乗じた金額である一〇〇〇万円から、本件建物の右一〇〇〇万円分に係る本件譲渡時までの減価償却費の合計額六五六万五四五一円(別紙二記載の<5>の金額)を控除した金額(所得税法三八条二項)である。

(3) 特別控除額 一〇〇万円

租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)三一条二項に規定する特別控除額である。

(4) 課税長期譲渡所得金額 六七五六万五〇〇〇円

右金額は、右(1)の収入金額から(2)の取得費及び(3)の特別控除額を控除した後の金額(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)である。

(二) 本件資産に対する原告の持分が一〇分の四であることは、次の経緯によって明らかである。

(1) 原告は、昭和四二年ころまで文とともに、米子市明治町九番地所在の原告所有にかかる店舗(以下「米子市の店舗」という。)において、パチンコ店毎日会館を共同経営してきたが、昭和四二年頃には、右経営はおもわしくなくなってきていた。そこで、文と原告は米子市の店舗を売却して、新たに広島市の本件建物においてパチンコ店を共同経営することを合意し、原告は、昭和四二年一一月二七日米子市の店舗を安川典江(以下「安川」という。)に対し、一四〇〇万円で売却して、右売却代金を広島市におけるパチンコ店経営の出資金として文に渡したものである。文は昭和四二年一〇月一日原告立会いのうえで本件資産を二五〇〇万円で買い入れる契約をしたのである。

なお、文は、昭和四五年一〇月二二日本件建物について同人単独名義の所有権移転登記を経由したが、これは、文、孫及び地主らの間で本件建物の敷地をめぐる紛争があり、これを解決するため便宜上したものに過ぎない。

文は、本件資産においてパチンコ店を営業するための設備資金を出資し、原告と文とは昭和四三年に右パチンコ店毎日会館の営業を開始したが、その際同人らは相談のうえ本件資産を含む各パチンコ店毎日会館全体の財産について原告が一〇分の四、文が一〇分の六の割合で権利を持つことを合意したものである。

(2) 原告及び文は、本件建物の敷地を取得する資金の融資を受ける都合上、法人を設立することとし、昭和四五年九月一日出資金合計三〇〇万円を原告が一〇分の四、文が一〇分の六の割合で出資して有限会社共栄企業(以下「共栄企業」という。)を設立し、同社は、昭和四六年一二月一五日本件建物の敷地の所有権を取得した。

しかして、原告及び文は昭和四七年二月二八日付営業譲渡契約書をもって、原告らが昭和四六年一二月三一日現在有していた右広島パチンコ店の個人営業に係る財産(資産、負債及び権利義務一切)の内から本件資産を除くその余のパチンコ店の営業権等の財産を共栄企業に譲渡し、それと同時に原告らは、本件建物を昭和四七年一月一日から共栄企業に月額一三〇万円で賃貸するとともに、本件建物の敷地を原告らが共栄企業から月額八〇万円で賃借することとした。

そして、原告は、昭和四七年分から昭和五一年分までの所得税の確定申告において、右賃料一三〇万円の四〇パーセントに相当する金額を共栄企業からの収入金額とし、本件建物の敷地の地代八〇万円、固定資産税及び本件建物にかかる減価償却費のそれぞれ四〇パーセントに相当する金額をその必要経費として各年分の不動産所得の金額を計算して申告してきた。

(3) 昭和五一年秋頃に至り、右広島のパチンコ店が営業不振となったため、原告と文とは、やむなく本件資産及び共栄企業所有の本件建物敷地と同社所有の機械設備一切を処分することとし、同年二月一五日広島興産に対し、本件資産を一億八〇〇〇万円で売却し、これと同時期に共栄企業は、同社所有の本件建物の敷地を一億五〇〇〇万円で、同社所有の機械設備を七〇〇〇万円でそれぞれ広島興産に譲渡した。

そして、文は昭和五二年分の所得税の申告において、本件資産の譲渡代金の六〇パーセントに当たる一億〇〇八〇万円を譲渡収入金額として申告した。

(4) しかして、原告は、本件資産の譲渡代金の内から八五〇〇万円を文から受領しており、右は本件資産の譲渡代金の四〇パーセントに当たる金額を上まわるものである。

以上の事実によれば、原告が本件資産について一〇分の四の持分を有していたことは明らかである。

3  被告は、原告がその昭和五二年分の所得税の確定申告において、本件課税長期譲渡所得金額を申告せず、かつ、その申告をしなかったことについて正当な理由があるとは認められないことから、国税通則法六五条一項の規定に基づき本件更正により納付すべき税額二三八六万八〇〇〇円(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額一一九万三四〇〇円の過少申告加算税を賦課決定したもので、本件処分には何ら違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。(三)、(四)も争うが、計算方法自体は争わない。

2  同2の冒頭部分の表のうち<1>の事実は否認し、<2>の事実は知らない、<3>の事実は否認する、<4>、<5>の事実も争うが、計算方法自体は争わない。(一)(1)のうち、文が昭和五二年ころ本件資産を広島興産に売り渡したことは認めるが、右譲渡代金が一億八〇〇〇万円であることは知らず、本件資産が原告と文との共有にかかるものであることは否認する、(2)の事実は知らない、(3)、(4)の事実は争うが、計算方法自体は争わない。

(二)(1)のうち、原告が昭和四二年ころまで、文と米子市の店舗において、パチンコ店を共同経営してきたことは認めるが、その余の事実は争う。原告は、文から昭和四二年初めころ本件建物においてパチンコ店を共同で経営することを誘われてこれを承諾したが、その際文は、本件資産の購入代金相当額を出資し、既に本件資産は取得済であると説明しており、原告が出資する金は本件資産の取得費でなく設備資産に充てることは、共同経営の話の当初から既に決まっていたことである。そうであるが故に文は本件建物をその単独名儀にしたのであって、当初共同で買い入れる予定であった本件建物を、事情の変更によって文の単独名儀にしたとの被告の主張は誤りである。また、原告と文との間で共同経営についての出資比率を六対四とする旨の合意は存在したが、右は、利益の分配比率であって、事業を構成する全資産についての持分比率ではない。現に、米子市で経営していたパチンコ店については、原告と文との出資比率は五対五であったが、建物の所有名儀は原告で、右建物の売却代金も、金額原告の所得として原告の本件事業への出資金に充当されている。(2)の事実については、原告が本件事業の経営並びにこれに付帯する事務の一切を文に委任していたところ、文が被告主張のような処理を行ったものである。(3)のうち、原告が文から、昭和五二年初めころ、本件資産を含むパチンコ店毎日会館を処分することとしたことは認める、その余の事実は知らない、(4)、(5)の主張は争う。

3  同3のうち、原告が昭和五二年分の所得税の確定申告において、長期譲渡所得金額を申告しなかったことは認めるが、その余の主張は争う。

五  原告の反論

被告は、本件資産の譲渡に伴ない原告に七二〇〇万円の所得が発生しており、原告は現実にも右額を上まわる額の金員を収受していると主張する。しかしながら、被告の右主張は以下のとおり理由がない。

1  被告は、原告が文から受領した金員は、すべて本件建物の譲渡代金であるとしているが、当時文は、パチンコ店毎日会館の営業全体を何億円かの金員で処分する契約を行っていて、売却代金を既に受領していたのであるから、原告が文から受領した金員の内に本件資産の売却代金が含まれていたとしても、その一部にすぎない。

2  被告は、原告が文から一旦受領した八五〇〇万円を原告の所得であると主張するが、原告は、その後の昭和五二年四月七日ころ右金員の内から原告を経由して文が宮本忠信(以下「宮本」という。)から借入れていた二〇〇〇万円を同人に返済し、また、共栄企業の借入金五〇〇万円を白土茂保に返済している。そして、文もこのことを承認しており、後に毎日会館の営業の処分代金の分配をめぐる紛争が生じた際にも、原告が保管している金額は六〇〇〇万円であることを当然の前提として話し合いが行われたものであって、右の二五〇〇万円は、いかなる意味においても原告の所得とはいえない。

3  更に、原告は、毎日会館の営業の処分代金の分配をめぐる紛争により、文から刑事告訴を受け、この解決のために、昭和五二年七月三日和解契約を締結し、これに基づき文に二五〇〇万円を返還したので、結局原告が収受した金員は三五〇〇万円にすぎない。

そもそも、所得は、経済的にみてその利得を現実に支配管理し、自己のためにこれを享受し得る可能性の存するに至ったときに発生すると解すべきであり、本件のように原告が保管中の金員の帰属について刑事告訴に至るまでの紛争が生じた場合には、原告が文から受領した金員は、原告が現実に支配管理していたとは到底いいえないのであって、原告が確定的に取得した三五〇〇万円を除く部分は、原告の所得とはいえない。

4  以上のように、原告に発生した所得は三五〇〇万円にすぎず、しかもその所得は、共栄企業の共同経営者としての地位を譲渡するについての対価、すなわち共栄企業の社員の持分権の譲渡代金又は退職金的なものである。

第三証拠

当事者双方の証拠の提出、認否及び援用は本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  本件処分の経緯が別表記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和五二年分の所得金額のうち総所得金額が三三一万九六〇〇円であることは、当事者間に争いがないが、分離長期譲渡所得金額については、被告がこれを六七五六万五〇〇〇円であるとするのに対し、原告はこれを二八〇九万〇九〇九円であるとし、本件更正のうち同額を超える部分は違法であると主張するので、以下この点について判断する。

1  まず、被告は、原告が本件資産に対し一〇分の四の共有持分権を有していたと主張する。成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第二号証、第一六号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる乙第一号証(但し、原告の署名押印部分を除く)、証人文相晋の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第一四、第一五号証、広島西税務署押印部分及び同署事務吏員の作成部分の成立につき争いがなく証人白土茂基の証言によりその余の部分の成立の認められる乙第六ないし第一一号証、広島西税務署押印部分につき原本の存在及び成立に争いがなく証人文相晋の証言によりその余の部分の原本の存在及び成立の認められる乙第一二、第一三号証、証人文相晋、同白土茂基の各証言並びに原告本人尋問の結果によると、原告の母である白土菊子と文とは、昭和三三年から白土菊子所有にかかる米子市の店舗においてパチンコ店を共同経営し、菊子が昭和三四年二月一〇日死亡した後は、原告が右店舗の所有権及び経営権を承継し、昭和四二年ころまで原告と文とは右店舗においてパチンコ店を共同経営してきたこと(原告が昭和四二年ころまで文と米子市の店舗においてパチンコ店を共同経営してきたことは、当事者間に争いがない。)文は昭和四二年初めころ、米子市の店舗におけるパチンコ店の経営がおもわしくないため、孫所有の本件建物を取得してパチンコ店を新たに経営しようと考え、孫との間で同年二月ころ建物代金二五〇〇万円のほか、孫の債権者である徐彩源に対し直接一五〇〇万円を支払うという条件で売買契約を締結し文は孫に対し同月、右契約に基づき建物代金の内金二〇〇〇万円を支払ったこと、文は、その二、三か月後、原告との間で米子市の店舗を売却し、本件建物においてパチンコ店を共同で経営することを合意したこと、原告は、昭和四二年一一月二五日米子市の店舗を安川に一四〇〇万円で売却し、文に対し直ちに右一四〇〇万円を本件建物におけるパチンコ店の資金として出資し、文は右金員を右建物の残代金、設備費、運転資金等に充て、昭和四三年から本件建物で、パチンコ店「毎日会館」を開業したこと、右事業を始めるに際して文と原告とは、毎日会館全体の資産を共有とすることとし、双方の出資額等を考慮のうえ、文と原告との持分比率をそれぞれ六対四とすることで合意したこと、昭和四五年九月文と原告とは、個人経営から会社組織に移して毎日会館を経営することとし、他の二名の名義を借りて共栄企業を設立したが、その際同社設立の出資金三〇〇万円を文と原告との間で六対四、即ち文が一八〇万円、原告が一二〇万円と分割し、それぞれ右額の出資金を分担したこと、共栄企業は昭和四六年一二月一五日本件建物の敷地である広島市西区己斐本町一丁目一五番七宅地を前所有者である田中隆平から買い受けたこと、また、昭和四七年二月二八日文と原告とが共有していた本件資産以外の営業資産及び負債並びに権利義務の一切を昭和四六年一二月三一日付で共栄企業に包括譲渡する旨の営業譲渡契約を締結したこと、更に文と原告とは共栄企業に対し昭和四七年一月一日付で本件建物を月額一三〇万円で賃貸し、敷地は、文と原告とが共栄企業から月額八〇万円で賃借することとしたので、結局共栄企業は文及び原告に差額月額五〇万円を支払うこととなったこと、文と原告との利益分配については、個人営業のころは、利益を文と原告とで六対四で分配し、また、共栄企業に営業譲渡後は、原告は共栄企業の役員報酬及び共栄企業に対する本件建物の賃料収入のうちの四割を収入とし、このうちから租税公課、共栄企業に対する敷地の賃借料の各四割を必要経費として負担することとし、昭和四七年分から昭和五一年分まで原告から依頼を受けた長野千秋税理士は、その旨所得税の確定申告をなしたこと、文と原告とは昭和五二年二月一五日本件資産を広島興産に一億八〇〇〇万円で売却したこと、以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、文と原告とは本件建物を共有し、その持分割合は、六対四であったものというべきである。

なお、前掲甲第六号証によると、本件建物は昭和四二年二月一三日付売買を原因として昭和四五年一〇月二二日付で孫から文の単独名儀への所有権移転登記手続がなされていることが認められるが、前掲乙第一六号証、証人文相晋の証言によれば、右のように本件建物につき文の単独名儀の所有権移転登記手続が経由された理由は、文が所有者の孫と本件建物の売買交渉をしていた際、本件建物をめぐって孫と敷地の賃貸人との間に訴訟が係属しており、文も右訴訟に参加するところとなったが、右訴訟の過程で和解が成立し、その条項によれば文への単独の所有権移転登記手続が行われるべきこととなったためであることが認められ、右認定を左右する証拠はない。したがって、登記簿上の本件建物の所有権者が文の単独名儀であったことをもって、本件建物が文の単独所有であったことの証左であるということはできない。

また、原告は、昭和五二年七月三日の和解契約に基づき文から受領した三五〇〇万円につき、これは共栄企業の共同経営者としての地位を譲渡することについての対価、すなわち共栄企業の社員の持分権の譲渡代金又は退職金的なものであると主張している。右主張はそれが原告の譲渡収入金額につき現実に受領した三五〇〇万円に限定されるべきであるとする趣旨の主張であるとすれば、主張自体失当であることは後記2のとおりであるが、原告は右事実をもって、原告が本件資産について共有持分権を有していなかったことを示す事情の一つとして主張しているものとも解されるので、なお、この点について判断するに、前掲乙第一三号証、第一六号証、成立に争いのない甲第一、第二号証、第三号証の一、乙第一七号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第三号証の二ないし六、証人文相晋の証言により成立の認められる乙第一八号証、証人文相晋、同白土茂基の各証言、原告本人尋問の結果によると、原告及び文は、昭和五二年二月一五日に広島興産に対し本件資産を一億八〇〇〇万円で譲渡した際、同時に、共栄企業の所有する本件敷地を一億五〇〇〇万円、機械設備を七〇〇〇万円、総額四億円で一括譲渡したこと、原告及び文は、右譲渡代金をもって東京で新たにパチンコ店を共同経営することを合意していたが、原告は右譲渡代金中、自己の取り分を早期に確保しようと企て、文に対し、パチンコ店開設のために受ける銀行融資の担保として銀行に預金する旨の虚偽の事実を申し向け、本件譲渡代金の内から、昭和五二年三月二六日に五〇〇〇万円、同年四月一九日に三五〇〇万円、合計八五〇〇万円を受領し、この内から、共栄企業の借入金の内、宮本忠信からのもの二〇〇〇万円及び白土茂保からのもの五〇〇万円の合計二五〇〇万円を共栄企業のために弁済したが、残額六〇〇〇万円を自己の手元に置いたため、文は原告を東京地方検察庁に詐欺及び横領の罪で告訴したこと、原告は、右告訴を知り、広島興産の代表者であった徐彩源を仲介人として同年七月三日文との間で和解契約を締結し、右契約において、原告は文に対し右六〇〇〇万円の内から二五〇〇万円を返還し、他方、文は原告に対する告訴を取り下げ、また、原告の共栄企業に対する出資金の持分権は共栄企業自体が赤字でもあることから無償で共栄企業を引き継ぐ者に譲渡することを合意し、そのとおり実行されたことが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実によれば、原告が右和解契約により受領した三五〇〇万円が、原告の主張するような共栄企業の社員の持分権の譲渡代金もしくは退職金的なものであると認めることは到底できないものというべきであるから、右事実をもって本件資産について原告は持分権を有していなかったことの証左ということはできない。

そのほか、本件建物が文の単独所有であることあるいは原告が持分権を有していなかったことを窺わせる事実も認められない。

以上の次第で、原告は文とともに本件建物を共有し、その持分割合は一〇分の四であったものというべきであり、したがって、本件建物の譲渡代金一億八〇〇〇万円中、原告に帰属すべき額は、その一〇分の四である七二〇〇万円となるものといわなければならない。

2  次に、原告は、昭和五二年七月三日の和解契約により原告が文から取得した金員は三五〇〇万円にすぎず、また、右金員は本件建物の譲渡代金ではなく、毎日会館の経営上の持分の譲渡の対価であり、本件建物の譲渡代金は文から取得していないことになるし、仮に譲渡代金であったとしても、その譲渡収入金額は原告が文から現実に受領した三五〇〇万円に限られるべきであると主張する。

しかしながら、譲渡所得に対する課税の本旨は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するもので、その計算上収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額(所得税法三六条第一項)であって、右収入すべき金額とは、譲渡の対価を取得し得る権利の確定した金額であって、右金額を現実に取得したか否かは譲渡所得の発生を左右するものではないというべきであるところ、原告及び文の共有にかかる本件資産が昭和五二年二月一五日に広島興産に一億八〇〇〇万円で売却され、原告はこの内一〇分の四である七二〇〇万円を確定的に取得し得ることとなったことは、右1認定のとおりであるから、原告が文から現実に右売却代金を受領したか否か及び受領した金員の趣旨の如何を審究するまでもなく、原告の右主張は理由がないものといわなければならない。

よって、原告の本件資産譲渡収入金額は七二〇〇万円となるものというべきである。

3  文は昭和四二年二月ころ本件資産を孫から二五〇〇万円で取得し、原告も同年一一月一四〇〇万円を出資し、文と原告とは出資額等を考慮のうえ同年末ころ本件資産の共有持分比率を六対四とすることで合意したことは、右1認定のとおりであるので、原告が本件資産の取得に要した金額は右二五〇〇万円の一〇分の四に該当する一〇〇〇万円となるところ、前掲甲第六号証、乙第一〇号証及び弁論の全趣旨によれば、右取得に要した金額から控除すべき譲渡時までの本件建物の償却費相当額は別紙二<5>記載のとおり六五六万五四五一円となることが認められるので、原告の取得費は、三四三万四五四九円となる。

4  右認定の各事実によれば、原告の課税長期譲渡所得金額は、譲渡収入金額七二〇〇万円から取得費三四三万四五四九円及び特別控除額一〇〇万円(租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)三一条二項)を控除した六七五六万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)となるので、被告の本件更正に原告の所得を過大に認定した違法はないものというべきであり、したがって、右更正を前提としてされた本件過少申告加算税の賦課決定処分にも何らの違法はないものといわなければならない。

三  よって、原告の本訴請求は、理由がないので、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 中込秀樹 裁判官 金子順一)

別表

本件課税処分の経緯

<省略>

別表1

物件目録

借地権付建物

所在    広島市西区己斐本町一丁目一五番地六、七、八、九

家屋番号  一五番七

種類、構造 店舗、木造セメント瓦亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積   一階 六六三・七〇平方メートル

二階 五八・二八平方メートル

合計 七二一・九八平方メートル

別紙二

減価償却費等の計算明細

<省略>

(注) 償却方法は、本件建物の耐用年数を22年とし、定率法によった(減価償却資産の耐用年数等に関する省令参照)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例